新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
言っていることが、全く理解出来ない。
「分かっていると思うが、仕事は仕事として。あくまで、これはプライベートなことだからな?」
奈落の底に、突き落とされた気分だった。
高橋さんは、仕事とプライベートの区別をきちんとつけている人だということは、十分過ぎるほど知っているのに……。
「それじゃ、おやすみ」
「あ、あの……」
助手席のドアを閉めて運転席に座ってエンジンを掛けると、高橋さんはこちらに一瞥もくれずに走り去って行ってしまった。
「高橋さん……」
何も考えられないまま、遠ざかる高橋さんの車をテールランプが見えなくなるまで見ていた。
何で?
どうして、こんなことに?
土曜日のことが、関係しているの?
考えても、分からないことばかり。
濁った半月が、冷たく見上げた夜空を照らしているだけで、星は1つも見えなかった。
私……何を……した?
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