新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
思えば、いつか仁さんが言っていたことは、このことだったのかもしれない。高橋さんは、はっきりしないとか言われて女の子の方から去っていくパターンが多いって。でも高橋さんは追わないし、それはそれでいいと思っているところもあるからと。
きっと、高橋さんは相手が去っていっても、それでいいと思っている。あの時、仁さんの言った言葉の意味がようやく分かった気がする。
高橋さんは相手のことを思い、そして相手が幸せになれるのだったらそれでいいって、心底そう思っているんだ。
私も、そう思われてしまったってこと?
「でも……私、待っています。高橋さんのけじめがつくまで、ずっと……。ずっと、待っていますから」
「……」
その後は何も言えなくなってしまい、黙って高橋さんを見ていたが、その表情からは何も読み取れず、 「それじゃ」 とだけ言って高橋さんは帰って行った。
高橋さんに 「待っています」 と言ったからには、それ以上、何も聞けないことは分かっていた。
そして、その応えが返って来ないことも。
もう……無理なのかな?
翌日からも普段通り出社して、普段通りに高橋さんと会話を交わし、仕事が終わらなくて遅くなってしまうと高橋さんが送ってくれたが、怖くてその話題に触れることも出来ず、かといって自分から何か違う話をすることも憚られ、ただ高橋さんと当たり障りのない会話をすることぐらいしか出来ずにいた。必死に冷静な平常心を保つことで、精一杯だったから。
もし、高橋さんがその話題に触れたりしたら、きっと泣き出してしまいそうだった。
それを思うと、本当はもっと高橋さんの真意を知りたいのだけれど、怖くて今は触れたくない。
そのことを除けば、いつもと変わらない助手席の風景。運転席には高橋さんが座っていて、手を伸ばせばその温もりを感じられる距離。それなのに、とても今は遠い存在になってしまった。高橋さんの左腕が、身近に感じられない。手を伸ばせば、直ぐ届くのに。
「普段なら、もう寝てる時間だろう。眠いんじゃないのか?」
「えっ? そ、そんなことないです」
初めて逢った頃のように、他愛のない世間話はするけれど、必要以上の会話はしなくなっていった。
無論、高橋さんに触れることも、見つめ合うことも……。
「送って下さって、ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
ハッ!
何時もなら、高橋さんの車が見えなくなるまで見送っていたが、何だかそれで高橋さんに重く思われたくなくて、慌ててエントランスのドアを開けて中に入った。
「ふぅ」
部屋のドアを閉めた途端、緊張していた肩の力が抜けて大きな溜息をついた。
きっと、高橋さんは相手が去っていっても、それでいいと思っている。あの時、仁さんの言った言葉の意味がようやく分かった気がする。
高橋さんは相手のことを思い、そして相手が幸せになれるのだったらそれでいいって、心底そう思っているんだ。
私も、そう思われてしまったってこと?
「でも……私、待っています。高橋さんのけじめがつくまで、ずっと……。ずっと、待っていますから」
「……」
その後は何も言えなくなってしまい、黙って高橋さんを見ていたが、その表情からは何も読み取れず、 「それじゃ」 とだけ言って高橋さんは帰って行った。
高橋さんに 「待っています」 と言ったからには、それ以上、何も聞けないことは分かっていた。
そして、その応えが返って来ないことも。
もう……無理なのかな?
翌日からも普段通り出社して、普段通りに高橋さんと会話を交わし、仕事が終わらなくて遅くなってしまうと高橋さんが送ってくれたが、怖くてその話題に触れることも出来ず、かといって自分から何か違う話をすることも憚られ、ただ高橋さんと当たり障りのない会話をすることぐらいしか出来ずにいた。必死に冷静な平常心を保つことで、精一杯だったから。
もし、高橋さんがその話題に触れたりしたら、きっと泣き出してしまいそうだった。
それを思うと、本当はもっと高橋さんの真意を知りたいのだけれど、怖くて今は触れたくない。
そのことを除けば、いつもと変わらない助手席の風景。運転席には高橋さんが座っていて、手を伸ばせばその温もりを感じられる距離。それなのに、とても今は遠い存在になってしまった。高橋さんの左腕が、身近に感じられない。手を伸ばせば、直ぐ届くのに。
「普段なら、もう寝てる時間だろう。眠いんじゃないのか?」
「えっ? そ、そんなことないです」
初めて逢った頃のように、他愛のない世間話はするけれど、必要以上の会話はしなくなっていった。
無論、高橋さんに触れることも、見つめ合うことも……。
「送って下さって、ありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ」
ハッ!
何時もなら、高橋さんの車が見えなくなるまで見送っていたが、何だかそれで高橋さんに重く思われたくなくて、慌ててエントランスのドアを開けて中に入った。
「ふぅ」
部屋のドアを閉めた途端、緊張していた肩の力が抜けて大きな溜息をついた。