新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
滅多に他人を褒めないまゆみが、高橋さんのことを褒めてくれた。まゆみが褒めてくれるぐらいの人だから、きっと高橋さんはそういう人なんだ。
嬉しいような、寂しいような、複雑な思いが入り交じっていた。
「だから、陽子。別れると言われたわけじゃないんだから、前向きに元気だして」
「うん」
「あまり、深く考え込まないほうがいいよ」
「そうだね。ありがとう。まゆみ」
そうは言ったものの、やはり気にならないといったら嘘になる。高橋さんは相変わらず忙しくて、分刻みのようなスケジュールをこなしていたが、仕事は仕事として変わらず接してくれていた。それでも、ふとした時にこの前言われた言葉が蘇ってきてずっと考えてしまっているし、家に帰れば尚のこと。まして、会社では否が応でも高橋さんと毎日顔を合わせているので、些細なことでも気になってしまう。
頭では分かっていても、実際目の前に高橋さんが座っている姿を見てしまうと、やっぱり気持ちが付いていかない。
あれから、1日がとても長く感じられる。今朝、やっと木曜日だと思った矢先、明日は社内旅行だということを思い出してしまい、電車を降りて会社に向かう足取りが一層重くなった。それでも、会社に行けば高橋さんに会えると思うと、やはり会社に行きたいという気持ちになれる。頭の中が、高橋さんで一杯だった。
社食で、周りが明日の社内旅行の話で盛り上がっている会話を耳にしながら、決算の本締めの忙しさと言い様のない寂しさに、この宙に浮いてしまった気持ちにどう耐えればいいのか分からず、あまり眠れないこともあって胃が痛くなっていた。
「あれ? 矢島さん。食欲ないの? 殆ど、食べてないよね。大丈夫?」
中原さんが配膳返却口で、うどんを残してしまった私の食器を見て心配そうに声を掛けてくれた。
「はい。大丈夫です。何か、お腹空いてなくて……」
「そうなんだ。忙しい時だけど、あまり無理しない方がいいよ」
「はい。ありがとうございます」
そして、迎えた社内旅行当日。
法人税等の締めが迫っているので、まだ気の抜けないこの時期。いつものように、集合時間には到底間に合わない感じで仕事に追われていた。
「中原と矢島さん。もう直ぐ宴会が始まる時間だし、会計だけ誰も居ないのも何だから先に行っててくれないか。俺も、直ぐ後から行くから」
高橋さんが、18時半過ぎにそんなことを言い出した。
「でも……」
嬉しいような、寂しいような、複雑な思いが入り交じっていた。
「だから、陽子。別れると言われたわけじゃないんだから、前向きに元気だして」
「うん」
「あまり、深く考え込まないほうがいいよ」
「そうだね。ありがとう。まゆみ」
そうは言ったものの、やはり気にならないといったら嘘になる。高橋さんは相変わらず忙しくて、分刻みのようなスケジュールをこなしていたが、仕事は仕事として変わらず接してくれていた。それでも、ふとした時にこの前言われた言葉が蘇ってきてずっと考えてしまっているし、家に帰れば尚のこと。まして、会社では否が応でも高橋さんと毎日顔を合わせているので、些細なことでも気になってしまう。
頭では分かっていても、実際目の前に高橋さんが座っている姿を見てしまうと、やっぱり気持ちが付いていかない。
あれから、1日がとても長く感じられる。今朝、やっと木曜日だと思った矢先、明日は社内旅行だということを思い出してしまい、電車を降りて会社に向かう足取りが一層重くなった。それでも、会社に行けば高橋さんに会えると思うと、やはり会社に行きたいという気持ちになれる。頭の中が、高橋さんで一杯だった。
社食で、周りが明日の社内旅行の話で盛り上がっている会話を耳にしながら、決算の本締めの忙しさと言い様のない寂しさに、この宙に浮いてしまった気持ちにどう耐えればいいのか分からず、あまり眠れないこともあって胃が痛くなっていた。
「あれ? 矢島さん。食欲ないの? 殆ど、食べてないよね。大丈夫?」
中原さんが配膳返却口で、うどんを残してしまった私の食器を見て心配そうに声を掛けてくれた。
「はい。大丈夫です。何か、お腹空いてなくて……」
「そうなんだ。忙しい時だけど、あまり無理しない方がいいよ」
「はい。ありがとうございます」
そして、迎えた社内旅行当日。
法人税等の締めが迫っているので、まだ気の抜けないこの時期。いつものように、集合時間には到底間に合わない感じで仕事に追われていた。
「中原と矢島さん。もう直ぐ宴会が始まる時間だし、会計だけ誰も居ないのも何だから先に行っててくれないか。俺も、直ぐ後から行くから」
高橋さんが、18時半過ぎにそんなことを言い出した。
「でも……」