再会したクールな警察官僚に燃え滾る独占欲で溺愛保護されています
「――手術、受けてみるか」
ふと聞こえた父の声に、私は大きく目を見開く。
父は病室の窓から見える中庭に視線を向けながら口角をぐっと持ち上げた。
「俺がいなくなったら千晶がひとりぼっちになってしまうからな。せめて俺の代わりに千晶を守ってくれる男が現れるまではそばにいてやらないと」
「お父さん……」
手術を受ける気になってくれたの?
気付かないうちに目尻に溜まっていた涙を指でさっと拭った。
「それに、今年はお花見ができなかったからな。来年はお弁当を持って花見がしたい。あと、加賀美くんに釣りを教えないとな」
やりたいことを楽しそうに語る父。
その顔は病気がわかる前のような明るい笑顔で、私と加賀美さんは顔を見合わせるとほっとしたように笑い合った。
父の病室を出た私と加賀美さんは並んで廊下を進む。
あのあと検診に訪れた看護師さんに父が手術を受ける決心をしたことを伝えると、すぐに主治医の先生と連絡を取ってくれた。
別室に呼ばれて今後の予定などの説明を受け、無事に手術の日程も決まり一安心だ。
「ありがとうございます。加賀美さん」
病院のエントランスを出たところで立ち止まり、隣を歩く加賀美さんに深く頭を下げた。
「私がどんなに説得してもだめだったのに、父が手術を受ける決心をしてくれたのは加賀美さんのおかげです」
「いや、俺はなにもしてないよ」
加賀美さんは謙遜するけれど、優しく語りかける彼の言葉が父の心を前向きに動かしたのだと思う。