【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「ぁ……。だっ、だって……あんな事があったのですよ……? 忘れるはずが、ないです……」

 マリアは、どくどくと鳴る心臓の音がジルベルトに聞こえやしないかと、照れ隠しに必死だ。
 だがそんなマリアの気持ちを察するはずもなく、再びうつむいてしまったマリアを眺め、ジルベルトは嘆息する。

 ——俺を助けた所為(せい)で、マリアはウェインの城を追い出されたのだ。俺のことを快く思っているはずがない。

「そうだな。マリアがあの店で辛い想いをする原因を作ったのは俺なのだから。忘れたくとも、忘れようがないだろうな……」

 ジルベルトの端正な面輪に明らかな落胆が見え、マリアにはその落胆がどうしてなのかわからず、すっかり戸惑ってしまう。

「いいえ、決してそういう意味ではっ。お城を出てから、辛くなかったと言えば嘘になります。でも……っ。あなたはちゃんと私とジルベルトを救いに来てくださいました。私……これでもすごく、嬉しいのです……! ジルベルトだって、きっと喜んでいますっ」

 必死に言い募ると、ジルベルトが虚を突かれた顔をした。かと思うと、ふ、と吐息とともに口元を緩める。

「うむ……ジルベルト、か。その名はやはり紛らわしいな。マリアに呼ばれれば、何だかよくわからんが《《おかしな》》気持ちが湧いてしまう」
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