【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「おかしな気持ち、ですか?」
「ん……、何というか。立場上、名前で呼ばれることが殆ど無いからかも知れないな。慣れていないのもあるが……」

 ジルベルトは仔猫をマリアに返し、足を組み直して膝の上に肩肘をつく。ジルベルトの長い脚は、狭い馬車の椅子と椅子の間ですこぶる窮屈そうだ。マリアの足に接触せぬようにしようとすれば余計に。

「マリアに名を呼ばれると、なんというか、胸の内側がくすぐったい」
「くすぐったいだなんて、そっ、そんな《《不快な》》気持ちにさせてしまうのは良くありません! 仔猫の名前は……ジルっ。やっぱり、ジルにします! ジルには、少し慣れてもらう必要がありますが……もう紛らわしくないですし、あなたを不快な気持ちにさせてしまうことも、ありませんからっ」

「にゃー」

 頭の良い仔猫は、まるでマリアの意図を汲んだかのようにに小さく鳴いた。
 ジルベルトに散々あやされて満足したのか、マリアの膝の上でおとなしく微睡(まどろ)みかけている。

「仔猫の名は、ジルに変えてもよい。だが……」

 逞しい腕がすっと伸びて、マリアの手がジルベルトの大きな手のひらに(さら)われる。そのまま形の整ったジルベルトの口元に持っていかれたかと思えば、手の甲にそっとくちづけられた。
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