【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「こ、皇城って……。皇城には、皇太子殿下もいらっしゃるのですよね……?!」
「え……? ああ、そうだな。それは、いるよ」
マリアの口から突然に『皇太子』という文言が出たので、ジルベルトは驚いてしまう。背中を緊張させて青ざめたマリアがうつむくのを見て、
「マリアも皆と同じように、皇太子が怖いのか……?」
——やはりマリアも、俺の『冷酷皇太子』の二つ名を知っていたのだな。
「怖いです……。とても……っ。出来れば皇太子殿下の目の端にも入りたくありません……!」
ジルベルトの心が折れる。マリアの手指を握りしめていた大きな手のひらが、すっと力を失った。
——マリアはそこまで怖がっているのか。
皇太子の目の端にさえ入りたくない。そう言ったマリアの真正面にいるのは、紛れもなく帝国の皇太子ジルベルト。そしてマリアはそのことを知らないのだ。
「すみませんっ……私、馬車がどこに向かっているのかを知らなかったものですから……。てっきり、あなたのお屋敷かどこかに連れて行ってもらって、そこで働かせていただけるのかと……そう思っていたので……っ」
ジルベルトは形良い眉をぎゅっと寄せ、焦りの色を滲ませる。
「聞いてもよいか。マリアはなぜ、皇太子がそれほどに怖いのだ?」