【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「それは困ったな。俺は、皇城で生活をしている。マリアの面倒を見てやりたいと思えば、それは皇城の中でだ」
——後宮、離宮もあるにはあるが、あそこは女同士の黒い争いに塗れている。マリアをそんな場所に置くわけにはいかぬ。
ジルベルトは思案を巡らせる。
「マリアが嫌がるのは、皇太子に会いたくないからか? それとも何か別の理由があるからなのか?」
「いいぇ……他に理由はありません。皇城に行くこと自体というよりも……私はっ、こ……皇太子殿下に遭遇してしまうのが……どうしても、怖いのです」
うつむいて不安いっぱいに揺れるマリアの伏せた眼差しを見た途端、ジルベルトの胸の奥がしめつけられたように痛くなる。
「あ……っ、でも、もしも皇城で下働きをさせていただくだけなら、下働きの者が皇太子殿下にお目にかかることなんて、まずありませんよね……?!」
——マリアはこの先に向かう場所で、働くするつもりだったのか。
アメジストの瞳で訴えかけるように、マリアがジルベルトの面輪を見上げる。そのあと、慈愛に満ちた眼差しを膝の上ですよすよ眠る仔猫に移した。
「ここであなたの馬車を放り出されてしまったら、私は、行くあてがありません。働く場所を見つけようにも、ジルベルト……ぁ、仔猫のジルが一緒だと、そう簡単ではありません」
眉根をわずかに寄せたまま、マリアは再びジルベルトを見上げる。笑みを湛えた唇は紅を差していないはずなのに、薔薇の花弁のように鮮やかだ。