【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「ですから、もしも皇城で働かせていただけるなら、それはとても有難い事です。あなたには、本当に感謝しています……ジルベルトっ」

 不意に名を呼ばれたジルベルトが虚を突かれた顔になる。
 ジルベルトの(かんばせ)を見上げるマリアのアメジストの瞳には、すがるような、妙に甘く頼りない光がゆらめいていた。
 
 途端。ジルベルトになんとも切ない気持ちが押し寄せる。
 彼女の境遇を不憫に思う同情心からそうなるのか、年頃の女性に初めて呼ばれた名の響きの嬉しい違和感なのか、それとも——。

 マリアは過酷な環境で下働きをしていた女だ。
 服は汚れ、艶を失った髪はひどく乱れていて、折角の愛らしい顔立ちが台無しになっている。身体は痩せこけて鶏がらのよう。男が(そそ)る艶気も、女性らしいふくよかさも無い。

 ——なのになぜ、俺はこの娘に惹かれるのだ……?
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