【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ———ン?!

 慌てて双扉に両手を掛け、力を込めて引き開けた。
 見下ろせば鮮やかな薄桃色の髪色が視界に飛び込んでくる。緩やかにウエーブがかった長い髪が、羊毛をふわりと広げたようにティーワゴンの上に覆いかぶさっていた。

「どうした、大丈夫か?!」

 顔を上げた少女の、長いまつ毛に縁取られたアメジストの瞳と目が合ってどきりと息を呑む——少女の大きな瞳と薔薇の花弁の唇が雪のごとく白い肌に張りついて、あまりにも鮮やかに見えたのだ。

「ジルベルト……さま」

 目の前で見上げる少女は紛れもなくマリアに違いない。
 けれど、薄汚れていた肌も、頭のてっぺんに引っ詰められていた乱れ髪も。ジルベルトが知る下働きをしていた頃のマリアとは判然と違っている。髪もこんなにたっぷりと長かったのかと目を見張るほどだ。

「もっ、申し訳ございません! すぐに淹れ直して参ります」

 薄い絹の夜着の上に羽織った丈長のガウン。その袖口から伸びる華奢な手が、横倒しになって注ぎ口から湯を流すティーポットを慌てて元の位置に戻そうとした。

「熱っ」 熱湯にふれたのか、反射的に宙を泳いだ指先をジルベルトの大きな手が掴む。

「見せて。……少し赤くなっているな」
< 125 / 580 >

この作品をシェア

pagetop