【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ジルベルトの自室に続く廊下の入り口に立つ、衛兵二人がちらりと遠慮がちにこちらの様子を伺っている。そそっかしいメイドが何をしでかしたのかと気になっているのだろう。

「とにかく。部屋に入って手当をしよう」
「軽い火傷(やけど)です! こんなの、平気ですから……っ」

 にわかに恥ずかしくなって、ひゅいと掴まれた指先を引っ込める。が、依然としてジルベルトは放してくれないようだ。

 扉の前のティーワゴンをそのままに。
 掴まれた手を引かれるようにして、部屋の中へと引っぱり込まれてしまう。その勢いで流れた風からは、ほのかに甘く爽やか石鹸の香りがした。

「ぁ……あの……!」

 そのまま部屋の奥の窓際まで連れて行かれ、やっと指先が開放されたと思えば、窓際に置かれた大きなソファに座れと促された。
 おずおずと腰を下ろせば、背もたれにあるふかふかのクッションがマリアの腰を包み込む。

 こんなに上質な家具に座ったのは初めてだ。
 マリアが王女と呼ばれていた頃でさえ、離塔で与えられていた部屋の(しつら)えはとても質素なものだったから。

 ジルベルトはどこからか小箱を持ってくると、銀色の小さな入れ物と包帯を取り出した。マリアの隣に腰をかけ、四角い銀色のケースをぱかりと開く。

「帝都一の名医が練りあげた軟膏だ。切り傷や火傷に良く効く」
 
 マリアの指先を取り上げ、手際よく指先に薬を塗るジルベルトに呆然と見惚れてしまう。頭の中では、本当なら口に出して言うべき言葉がぐるぐると回っていた。

 ——自分でできるって早く言わなくちゃ……。

 なのにされるがままになってしまうのは。
 かいがいしく動く繊細な指の一本一本がとても綺麗だったのと、マリアの火傷を見つめる真摯な青い面差しに見入ってしまったからだ。
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