【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「おはようございます、ラムダさん! ジルの面倒を見て下さって有難うございます。一晩会えなかったので心配だったのですが、ジル、とっても元気です……!」

「ええ。先ほどもご飯をやりにお部屋に伺ったのですが、ジルはマリア様のお帰りをずっと待っていましたわ。なかなか扉の前を離れなくて」

「そうでしたか……」

 マリアは、さも愛おしげに仔猫の小さな頭に頬を擦り寄せる。

「ジル、私がいない間に《《おいた》》をしなかった? 私も失敗しないように頑張るから……。私たち、ここを追い出されてしまったら、もう行くところがなくなってしまうのよ?」

「ご心配なさらずとも、そんなに簡単に追い出されたりしませんわ」

 皇太子ジルベルトは、これまで一度たりとも自らお茶役を選ばなかったと聞いている。『皇太子が目をかけている』なんて文言を耳にしたのも初めてだ。

 ラムダは知っている。
 このマリアという女性の存在が、ジルベルトにとってどれほどに稀有(けう)なものであるかと言う事を。

 ——だからこそ、守らなければならない。
 それがマリアの専属メイドを拝命した、自分の役目だと。

「有難うございます、ラムダさん」

 は、と我に返る。
 見れば柔らかく微笑むアメジストの瞳がラムダを見つめている。
 肘掛け椅子に腰をかけたマリアの膝の上で、華奢な白い手指が仔猫をあやしていた。
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