【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「それなら、このお部屋で描いて下さい。ジルの面倒を見てくださる合間に、ここで……イーゼルを開いて……!」
「そんな、とんでもございませんわ。マリア様のお部屋です」
「ここなら誰に見られる事もありませんし、都合が良いのではないですか? それに、私っ、ラムダさんの絵を見てみたいわ」
きらきらと瞳を輝かせるマリアに、うわべだけの社交辞令ではなく本心なのだとラムダは悟る。もしもラムダ自身に置き換えてみば、自室でメイドが絵を描く姿など想像もつかない。
「お気持ちはとても嬉しいのですが。イーゼルも画材も家に置いて出てしまったのです。相部屋で描けるものといえば卓上での簡単な水彩画くらいですわ」
この獅子宮殿に従事する他のメイドたちのように、疑問を抱いたのはラムダとて例外ではなかった。
皇太子は旧来より、忍んで各国の視察に巡り回っていると聞く。
マリアとの関係性はその道中で生じたのだろう。だが皇太子ジルベルトともあろう者が何故、辺境地の居酒屋の下女をしていた女を特別に目にかけるのかと。
まず、女性には事欠かぬはずだ。
後宮には皇太子に見初められたいと請い願う皇族や王族の見目麗しき姫たちが、『行儀見習い』と銘打って年中押しかけるのだから。