【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
自分ごとのように自慢げに話すフェリクスをラムダは冷ややかに見遣る。これでも、犬猿の仲だったというライバルのフェリクスに讃えられ、照れているのだ。
「そ、それにしても。皇族の血を引いているからと言って、公爵位を継いだあなたが何故、いつまでも《《その》》礼服を着ているのです?! 漆黒の礼服と鷲のブローチは皇族の証です。ブローチはともかく、公爵位を継いだのだから、黒の礼服は脱ぐべきだわ」
「何故、僕が《《これ》》を着ているかって。知りたいの……?」
——……から。
何やら小さく呟いて、フェリクスは照れたような顔をする。
「え……?! なんですって?」
「もぅいいだろう、そんな事はどうだって」
——この礼服、カッコいいから。
「呆れた……。まったく、よい大人が恥ずかしくないのですか?! お脱ぎなさいっ!」
「嫌だよ、何を着ようが僕の勝手だろう?!」
「お脱ぎなさいってば!」
「だから、嫌だってば!」
仲の良い兄妹か、恋人かのような二人のやり取りは見ていて微笑ましく、マリアの緊張はゆるりとほどけていく。
「お二人は仲がよろしいのですね。私は一人っ子でいつも母と二人きりでしたし、学校には通っていませんし。
世話を焼いてくれる大人が何人か周りにいましたが、同年代のお友達と関わることはありませんでしたから。そんなふうに想いのまま言葉を交わせるお二人が、とても羨ましいです……!」
「嫌だわ、わたくしたち。見苦しいところをお見せしましたわね。そう言えば、マリア様はフェリクス様にお尋ねすることがあったのでは?」
「ぁ、ええ……ジルベルト様のことなのです。ジルベルト様が皇城でどのようなお役目に就かれているのかを、フェリクス様にお聞きしたいと思っておりました」
聞き逃してはいない。
ラムダは、漆黒の礼服と鷲のブローチが『皇族の証』だと言ったのだ。
——もしかして、ジルベルトも……っ。
「マリアちゃん。今、なんて言った?」
「ジルベルト様に爵位やお役職があるなら、そばでお仕えする者として、知っておきたいと思っています」
「えっと、それは、だな……」
にこやかだったフェリクスの面輪が、虚を突かれたような色を見せる。