【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!


「殿……ッ、あぁ、いや。ジルベルトだ、そうだジルベルト。《彼》に直接、聞いてみてくれないかな! イッッッッッッッ!!」

 マリアには何故だかわからぬが、ラムダの靴裏の直撃でフェリクスの足の甲がまた悲鳴をあげる。

 マリアは思案に暮れる——フェリクス公爵なら、さらりと答えてくれると思っていた。
 ラムダとて同じではないのか。だからこそフェリクスに聞けと言ったのではないのか。

「……そ、そうですよね? では、そうします」

 マリアはすっかり呆気に取られてしまい、困惑のままに睫毛を伏せた。

「そうだ、ラムダ」

 フェリクスがおもむろに両手のひらを打ち付ける。
 綺麗な指先からぱちん! と乾いた音が(のぼ)った。

「マリアちゃんと宮殿の周りを散歩したいんだろう? それはいい! 行っといでよ。ただし獅子宮殿だけだからね! 他はともかく、本宮にだけは近づいちゃダメだよ。獅子宮殿のメイドだと言ったって無駄だ、本宮に無関係な者は容赦なく警吏に捕われてしまうからね。獅子宮殿の敷地からは出ないように気をつけて!」

 本宮とは、扉前に四人もの衛兵が立っていたあの巨大な宮殿の事だろうか。その本宮とやらにあの皇太子がいるのだろうか。
 マリアの脳裏に、皇太子が頭に被った黒銀色の甲冑の頭頂に揺れる白い羽飾りと、振り向きざまに見せた、ぎろりと睨め付ける氷のような瞳がよみがえる。
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