【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

「綺麗な手に、傷が増えてしまったな」
「へ?」

 ジルベルトは、居酒屋から皇城に向かう馬車の中でそうしたように、マリアの右手をすっと口元に運び、長い睫毛を伏せて、ちゅ、とくちづけた。

 ——きゃぁ!?

 手の甲に柔らかなものがふれ、驚いて声を上げそうになる。

「そ……そんな事をしたら、あなたの唇が穢れてしまいます!」
「これで穢れるなど、馬鹿げた事を言うのなら」

 手の甲を離れた形の良い唇が、今度はマリアの耳元で囁く。熱っぽい吐息が耳朶にかかり、背中がぞくりと粟立った。

「ここにもキスをしようか?」
「えっ、ええ……っっ!?」

「ほら、すぐに赤くなる。マリアは愛らしいな! 冗談だよ」

「冗、談……?」

 心臓がばくばくになっているマリアを、ジルベルトはさも楽しそうに眺めている。人を驚かせておいて笑うなんて。

 ——もう完全に、揶揄われているとしか思えません!

「あのっ。ずっと気になっていたのですが。あなたに聞きたい事があるのです」

 マリアの戸惑いを楽しんだジルベルトは上機嫌で、マリアの手を握ってソファの座面の上に捕まえたまま、悠長にワイングラスを傾けている。

「聞きたい事、とは?」
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