【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!
「あなたの、皇城でのお役職についてです。側にお仕えする身として、聞いておきたいのです。ラムダさんもフェリクス公爵様も、直接あなたにお尋ねするようにとおっしゃるので」
不意打ちを食らったジルベルトのグラスを持つ手が止まる。まさか今それを聞かれるとは思っていなかったのだ。
——マリアが俺の役職を知りたいと思うのはもっともだ。
本当の事を明かす時が、いつやって来てもおかしくなかった。
小鳥たちの囀りも、蟲の声さえも聞こえない。
静寂の宮は、蒼い宵闇の中にすっぽりと包まれている。
ジルベルトの背中にじとりと厭な汗が滲む。だが覚悟はしていた。
半ば諦めたように小さな吐息をつき、グラスを卓上にことり、と置く。
「もしも俺が、マリアが怖がる皇太子本人だと言ったら……?」
開け放たれた窓辺から舞い込んだ夜風が、薄いレースのカーテンを音もなく揺らす。
——ジルベルトが、皇太子……?
アメジストの瞳が、大きく見開かれた。