【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 ——いいえ、違う。
 ジルベルトは皇太子では、ない。

 皇位継承権を持つアスガルド帝国の皇子は三人。
 二人の皇子の名までは知らないけれど、皇太子の名は……

 確か、セルヴィウス。


 生前の母から、強大なアスガルド帝国がシャルロワにもたらす脅威について聞かされたことがある。

 豊かに稔る農地が国土の七割を占め、穀物の輸出で隆盛を極めるシャルロワ王国に、皇帝の名代である皇太子セルヴィウスからの伝令が届けられた。
 シャルロワの国政維持を約束する代わり、帝国の属国となることを促すものだ。

 病床の母は言った。
 シャルロワはいづれ帝国に呑まれる。
 王国の民の安寧よりも国益と私欲を優先し、帝国との属国関係を望まぬ王の治世は長く続かず、帝国軍との侵略戦争となるだろうと——。

 帝国軍との戦いに挑んだ或る国出身の学者の書物を読んだ。
 彼が書き記したのは、他を圧倒する帝国軍の戦術と戦況、そして敗戦国の無残な末路だった。
 武器を捨てて平伏する老人も、逃げまどう子供さえも容赦なく殺し、女は犯されたあと殺された。かろうじて生き残った民は軍兵の略奪によってその日を生きる糧さえも失い、飢えと貧困の中で息絶えていったと。
< 185 / 580 >

この作品をシェア

pagetop