【コミカライズ連載中】➕SS 雲隠れ王女は冷酷皇太子の腕の中〜あなたに溺愛されても困ります!

 そして三年前。
 帝国皇太子の親征により、シャルロワ王政は滅び去った。
 シャルロワ国民がどうなったのかさえ知る事もなく。ただ生き抜くのに必死だった三年という年月が流れた。

 生き残りの王女リュシエンヌを追うのは、そんな非情な軍隊を率いる皇太子セルヴィウス……そのはずだ。


 一方でジルベルトは、こんなにも早く皇太子だと打ち明ける時が来るとは思いもせず。マリアの返答を待つ碧い瞳が心許なく揺れる。

 ——『お茶役』など早急に辞退して、俺のそばから離れて行ってしまうのだろうか。

 そんなジルベルトの心配をよそに、マリアは口元に手をあて、静かに微笑(わら)うのだった。

「あなたが……ジルベルトが、帝国の皇太子様? そんなはずがありません。
 数多の国々を統べる大帝国の皇太子殿下が、政務を放ってあんな辺鄙なところまで、私のような下女を迎えに来てくださるはずがありません。
 あなたはそうやって、また私を揶揄っているのでしょう? 私の反応を見て、楽しんでいらっしゃるのでしょう……?」

 畳みかけるように言う。言葉を放ちながら、まるでそうであって欲しいと願うように。

 ジルベルトはといえば、言葉を失ってしまう。憂いを帯びた眼前の少女の微笑みは、なんと美しく、愛らしいのだろう。


 ——ああ、その通りだ。
 
 政務も議会も謁見も全て放り出して、俺は君に会いに行った。
 馬鹿げていると思うかも知れぬが、心から、そうしたいと思った。

 初めてなんだ。
 政務よりも他の何かを優先したいと思うのは。
 これほどまでに誰かを「そばに置きたい」「欲しい」と思うのは。
< 186 / 580 >

この作品をシェア

pagetop