黒瀬くんは、"あの"一匹オオカミちゃんを一途に溺愛したいらしい。
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──と、思っていたのだけれど。
「それでは、となりの席の人とペアになって実験してみてください。まずはアルカリ性から始めて、物質の変化を観察してノートにまとめておくように」
"となりの席"というのは本当に厄介だ。
新学期が始まって、早二週間。
本格的に授業もはじまり、何かとペアを組まされるときは大抵となりの席のヤツと一緒になるわけで。
理科の実験室で向かいの席に座っているこの男、黒瀬真中は今日も私を見てニコリと笑う。
「ねぇ。まずは俺達、自己紹介しない?」
「しない」
「じゃあチヨちゃんって呼んでも怒んないでよ?」
「怒る、呼ぶな、気持ち悪い」
「ハハッ!チヨちゃんって実はめちゃくちゃおしゃべりさんでしょ」
「うるさい、喋るな、実験に集中しろ」
フラスコの中に入っているいかにも危なげな液体をひたすら混ぜている私のことを、頬杖をつきながらジッと見てくる変態野郎なこの男。
こんな私と一緒にいて、何がそんなに楽しいというのか。
不気味でたまらない男だ。