青空@Archive
「どこだここ!?」
 紫苑のお目覚めの第一声が響く。
「どこって……おいおい見りゃ分かるだろう? 不思議の――」
「おぉ! 葉っぱでかっ! キノコでかっ! 食えるの? これ」
 あれほど面倒だ面倒だと嫌な顔をしていたのに、今は見たことのない植物に目を輝かせている。
「……まあ食えるには食える。毒もないし面白い味だが、ちょっと特殊なキノコだからな。食い意地ばっかり張ってないでちょっと待っててくれ」
 現実世界とこの本世界のギャップにビビってないだけまだましだが、全く危険が無いわけでもない。
 紫苑のように下手に好奇心ばっかり強いのも危ないのだ。
 藍は軽く舌打ちをして、鹿討帽を持ち上げる。
「しっかし、遅ぇ」
 かれこれこっちの時間で一刻。藍はこちらに来てすぐにチェシャ猫に言伝を頼んでいたので、とっくに来てもいい頃合いだ。
 言伝を頼んだ相手がやはりまずかったか?
 そんな事を思っていると、後ろから藍を呼ぶ声が聞こえた。
「あーーいーー……」
 上方からの微かな低い声に、藍が恐る恐る振り向くと、眼前にあったのは、巨大な二足の靴。
 そう、ぱっと見、靴だけしか見えなかった。
「んな……」
 藍の懸念は的中していた。
 見上げれば、首が痛くなるほど遥か上空から藍を見下ろす紫苑の顔が、微かに見えた。
 流石に驚愕の表情を浮かべたまま、固まってしまっている。
 ふと見れば、足下の巨大キノコの左側が小さくちぎられている。
 このキノコ、左側をかじれば大きく、右側をかじれば小さくなることができるんだが……。
「んのアホぉ! 人が説明する前に勝手に食ってんじゃねえ!! しかもがっつり食いやがって、どこかの配管工かお前は!」
「だーーっーーてーーぇーー……」
 美味しかったんだもんと紫苑は今にも泣き出しそうだったが、巨大化によって変声器のような間延びした声に変わっていたので、なんとも間抜けに聞こえた。
 そして、問題発覚。
 ようはキノコの右側を食べれば体が縮むのだが……どうやって食べさせる?
(はぁ……あんな山みたいに高い位置の口にキノコを持って登るなんて、そう簡単に出来るかよ)
 藍のため息は紫苑には聞こえる筈もなかった。
「あーーいーー……」
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