高遠王子の秘密の件は、私だけが知っている

○翌日朝。昇降口の未来の下駄箱にて。


「別れろ」と書かれた紙が貼られている。茫然と見つめる未来の横でちあきがため息をついている。

ちあき「あららー。これまた少女漫画の王道みたいな嫌がらせだねえ」

 どうしていいかわからず佇む未来達の前に高遠と桐山が現れる。

桐山「うーっす……って、うわ!何だよこれ!」

 驚く桐山と目を見開く高遠。無言で高遠は用紙をぐしゃぐしゃにする。

桐山「これさ、どうすんの?取りあえず担任にでも言ってみるか?」
高遠「言ったところで何にも変んないだろ。……ちょっと考えてみるから俺に任せてくれるかな?」
未来「考えるって、何を?」
高遠「まあ、色々と、ね」

 元気づける様に微笑む高遠は「取りあえず教室にいこうか」と未来達を促す。
 そんな様子を女子生徒ABは面白くない顔で物陰から見ていた。

――
場面転換
○放課後。夕方、人気のない昇降口。未来の下駄箱の前。
人目を忍んで行動する二人の女子生徒の声がする。

女子生徒B「今度はなんて書くの?」
女子生徒A「えーじゃあブスとか書いちゃう?」
女子生徒B「いいね!」

 二人がガザガサと何かを貼っていると「何してるの?」と声を掛けられる。
 下駄箱の死角に隠れていた高遠と桐山が姿を現すと、慌てだす女子生徒AB。

女子生徒B「高遠くん……っ?えっとこれは、その」
女子生徒A「これは、今河原さんの下駄箱に貼られてたの見つけて……今剥がそうとしてたところだったの!」
女子生徒B「そ、そう!たまたま見つけて、ね!」

 必死に弁解する二人に冷たい視線を送る高遠と桐山。

高遠「ふうん?そうなんだ。優しいね。……でも、俺にはそうは見えなかったけど?」

 そう言うと携帯のビデオカメラを再生させて、二人の前に突き出す。画面に写っているのは、未来の下駄箱に嫌がらせをする二人の映像。真っ青になる二人。

高遠「これさ、学校中の色々な生徒に配信したらどうなると思う?君等、いじめをした首謀者ってことになっちゃうね。そしてら内申点とかに響いたりもしちゃうんじゃない?」

 不気味な程に穏やかに微笑む高遠と、腕を組んで相手を睨みつけている桐山。

高遠「聞いたよ。君等、白鳥大学の推薦狙ってるんだって?……だとしたら、こういうのが世に出回っちゃうのはどうなんだろうね?」
桐山「あんまりよくないんじゃないの〜?」

 高遠と桐山の気迫にガタガタ震えだす二人にとどめの言葉が突き刺さる。

高遠「俺はね、何を言われても何をされたとしても構わないんだよ。けどね、未来……河原さんにこれ以上何かしたら、俺、許さないからね?」

 イケメンの怒りを滲ませた笑顔程恐ろしいものはない。女子生徒二人は「も、もうしませんから!」と腰を抜かして逃げていく。

桐山「……高遠、この間も思ったけど……。お前って怒ると恐ろしい男なんだな」
高遠「そう?そんなこともないと思うけど」
桐山「無自覚かよ……」

 事もなげに返す高遠に、絶対に高遠のことは怒らすまいと桐山は密かに誓うのだった。

○翌朝。登校シーン。
通学路を歩く未来とちあきに桐山が後ろから声をかけてくる。

桐山「うーっす」
未来「おはよー」
ちあき「あれ?今日は高遠くんは?」
桐山「なんか寝坊したとかとかで遅れてくるってさ」
ちあき「へー王子にしては珍しいね」

――
場面転換
○教室の中。
 わちゃわちゃ話をしながら始業の準備をしている未来達が窓の外に視線を向けると、始業ギリギリに高級車から急いで降りてくる高遠の姿が目に入る。

桐山「あー今日はマジで遅刻するやつだったんだな。高橋さんに送ってきてもらったのか」
未来「高橋さん?」
桐山「そ。あいつの父ちゃんの秘書兼運転手。……あれ?お前知らねえの?」
未来「何が?」
桐山「あいつんちって何かの会社経営してる、いわゆるセレブってやつだって」
未来「えぇ?何それ?!」

 びっくりする未来の反応に呆れる桐山。

桐山「お前、高遠のこと何にも知らねえのな」
未来「そうみたい」
桐山「ま、そんくらいユルいからこそ、高遠もお前と付き合ってるのかもしれないな」

 桐山が興味深そうに見つめていると、いつの間にか教室に入ってきた高遠が近づいてくる。

高遠「おはよう。なんか朝から楽しそうだけど、何かあったの?」
桐山「いやーなんにも」

 あえて言う必要もない話だからと「何もなかった」という桐山に「ふうん?」と、目を細める高遠。

高遠「仲良くするのはいいけどさ、未来は俺の彼女だから。そこんとこ忘れないようにな」
桐山「はいはい。わかってますよー。つーか、河原を好きになるやつは多分お前くらいだから心配すんなよ」

 確かに異性にモテた試しはないが、桐山のその言い草にカチンときた未来は思わず二人の会話に割って入る。

未来「ちょっと桐山くん。仮にも女子にそれは失礼なんじゃない?私だってね、その気になったら男子の一人や二人くらいメロメロにさせられるんだから!」

 多分だけど!と思いながら反論していると、高遠がいよいよ剣呑な空気を醸し出す。真っ先に気がついたちあきがギョッとして未来に「今の発言は駄目だって」と慌てて注意していると、始業のベルが鳴り響くのだった。

――

場面転換
○授業中

教師「はーいそれでは出席番号順に二人一組のペアになって、それぞれ課題やることー」

 河原(かわはら)桐山(きりやま)は隣同士。机を向かい合わせて課題をし始める。未来はまだ先程のことを根に持っているのでプリプリしているが、桐山はそんなことお構いないとばかりに未来にコソコソ話しかけてくる。

桐山「あのさ、昨日おしえてもらったあのゲーム」
未来「ドルラブ?」
桐山「あれ、中毒性半端ねえな」
未来「――でしょ?」

 自分達が薦めたものに好反応を示されて嫌な気分になるものはいない。未来もまるで自分のことの様に嬉しくなってつい話に盛り上がる。
 それを少し離れた席で見つめる高遠だったが、その表情は読み取れないものだった。

――
場面転換
○授業終わり
 未来は移動教室だと、ちあきと一緒に廊下を歩いていると急に誰かに腕を引っ張られて奥の人気のない廊下に連れ込まれ壁に背中を叩きつけられる。(前を歩くちあきは気が付かないでそのまま行ってしまう)
 
未来「きゃっ……あ、けーにゃんかあ。びっくりした」

 高遠の怒りを秘めた美しい顔が迫る、いわゆる壁ドンの体勢を取らされている。ドキドキする未来は目を反らせようとするが高遠はそれを許さず顎をくいと自分の方に固定させる。

高遠「未来さあ。さっきの話、何?」
未来「さ……さっきって?」

 顔が近い!と、動揺しながらも記憶にないと答える未来に苛立つ高遠。

高遠「始業前の。『その気になった男子の一人や二人』、ってやつ」
(回想 桐山に向かって言った台詞。
未来「その気になったら男子の一人や二人くらいメロメロにさせられるんだから!」)
高遠「未来はさあ。誰かメロメロにする予定でもあるの?」
未来「えっ?ないけど?」
高遠「ふうん?じゃあ、桐山とは授業中何を話してたの?」
未来「それは……ドルラブのことだけど?」
高遠「……へえ」

 納得したようなしないような顔をして、高遠はパッと未来から離れると、「それならいいんだけど」と表情を一転させニッコリ笑う。

未来「な……なんか、けーにゃん、ちょっといつもと違ったからドキドキしちゃったよ」
高遠「朝皆で楽しそうにしてたから、俺も混ぜてほしくてさ。驚かせちゃってごめんね?」

 未来の頬を指ですり上げると、少し拗ねたような甘えた顔をする高遠。 

未来「あっ?あーそうなんだ?こっちこそごめんね??」

 ドギマギしながらも先程までのひりついた空気を和ませようと笑う未来と、ふんわり微笑む高遠の姿。

高遠「引き止めちゃってごめん。早く移動しないと授業始まっちゃうね。急ごうか」
未来「う、うん!」

2つはバタバタと急ぎ足で廊下を移動する。

――

場面転換
○移動教室の教室内
 桐山が二人に声をかける。(移動教室の席は自由なので流れ上、桐山とちあきが隣同士席に座っている)

桐山「おーいお前らどうしたんだよ?」
高遠「悪い悪い。ちょっと野暮用で遅くなった」
桐山「野暮用ってなんだよ?さては河原がまた何かドジでもやったかあ?」
未来「やってないよ!失礼なっ!」

 キャンキャンと噛み付くような会話をする二人を面白くない顔で見ていた高遠は、隣にいた未来をグイと引き寄せる。

高遠「野暮用ってのはね……」

 バランスを崩した未来に覆いかぶさるようにして、キスをする高遠。

 キャー!!と黄色い悲鳴が教室内に響き渡る。
何が起きたのかと口を押さえて固まる未来。
口をあんぐり開けて驚く桐山とちあき。
くちを離すと涼しい顔で微笑む高遠。

高遠「……こういうこと、だよ」
未来(私の……私のファーストキス――――!!!!)

 高遠のとんでもない行動に教室中のざわつきはいよいよ大きくなるのだった。
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