冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
その答えに日奈子はなんだかモヤっとする。何気なくはじめた話のはずなのに、彼の答えを不満に思ってしまう。

「だけど、彼女はいたんでしょ?」

「そりゃいたことはあるけど」
 
とぼけているのかなんなのか、大したことではないというような宗一郎に、日奈子はますますもやもやするのを感じて、さらに追及する。

「好きだから付き合ったんじゃないの⁉︎」
 
言ってから、ハッとして口を閉じる。思ったよりもきつい言い方になってしまった。
 
宗一郎の方も、やや驚いたように日奈子を見ている。日奈子は慌てて取り繕う。

「えーっと、べつにいいんだけど」
 
もごもご言うと、宗一郎がふっと笑う。熱くなる日奈子の頬を優しく摘んだ。

「気が合いそうだと思って何人かとは付き合った。だけど結局誰にも本気にはなれなかったな。日奈子に対する気持ちが、妹への親しみから女性愛情へと変わってからは、誰とも付き合っていないよ」

「そうなんだ……」

「で、今は日奈子に、兄から男に見られようと必死になってるってわけだ」
 
そう言って目を細める宗一郎に、日奈子の胸はきゅんと跳ねた。

「必死って……。宗くんの方が大袈裟」

「大袈裟じゃないよ。思ってたよりも日奈子、恋愛に関して初心者だったからな。……あの初恋の話は嘘だろう? まぁ、日奈子がこうなったのは、過保護に育てた俺のせいでもあるんだが」
 
そう言って笑っている。その笑顔、声音、彼のすべてに日奈子の心は揺さぶられる。

『素直に』
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