冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
宗一郎が運転する車で九条家へ行くと、屋敷では宗一郎の両親宗介と敬子が待っていた。

「よく来たね、ひなちゃん」

ふたりは日奈子をにこやかに迎え、宗一郎を苦々しい表情で見た。

「宗一郎もお疲れさま。今日は仕事が早く終わったんだな」

「秘書室から働きかけがあって、ここ最近はなるべく帰宅するようにしている。報告も入れたはずですが」

「そ、そうだったかな……。まぁとりあえず、リビングで話そう」

リビングスペースで九条夫妻、日奈子と宗一郎は向かい合わせに座る。

なんだか異様な雰囲気だ。話の内容は日奈子に関することなのは間違いないが、まったく見当もつかなかった。
 
まずは宗介が口を開いた。

「ひなちゃん、仕事の方はどうだい? ひとり暮らしの方は困っていることはないか?」
 
彼は、会うと決まって日奈子に近況を聞く。いつもと同じ穏やかな口調に少し緊張していた日奈子はホッとして答えた。

「はい、旦那さま。仕事はとても楽しいです。接客はまだまだですが、ホテル九条のフロントに立てるのを誇らしく思う毎日です」

「うんうん、しっかりやってるみたいだね。万里子さんも喜ぶだろう」

「はい。母はホテル九条が末長くお客さまに愛されることを望んでいましたから。私が少しでもその役に立てているなら、喜んでくれるだろうと思います」

これもいつものやり取りだった。すると宗介の隣で敬子が微笑んだ。

「だけど、万里子さんはきっと、ひなちゃんがうちで働いていなくても、元気にやってるというだけで喜んでいると思うわ」
 
その言葉に、日奈子は彼女に視線を送る。
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