冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
宗一郎がややうんざりとして言う。
 
日奈子の胸がずきんと痛んだ。同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

母の恩人である九条富美子も、日奈子を大切に思ってくれている優しい九条夫妻も、宗一郎が幸せな結婚をすることを望んでいる。

それなのに自分はそれの障害となっている。
 
さっきは自分の気持ちに素直でいたい、自分の幸せだけを考えたいという誘惑に負けてしまいそうになったけれど……。
 
敬子が残念そうにした。

「私だって親なんだから、あなたには幸せになってもらいたいのよ? 結婚式では笑顔の絶えない家庭を築きます、なんて言う人が多いけれど、宗一郎が一緒にいて笑顔が絶えない相手なんているのかしら? あなたいつもどこか冷めてるじゃない? それこそひなちゃん以外のことは、あまり興味がないような……って、あら?」
 
そこで敬子がなにかに気がついたように声をあげて目をパチパチさせた。

「……ひなちゃん以外には興味がない。ひなちゃん……、そうだわ、ひなちゃんなら宗一郎を幸せにしてくれそうね? 昔から家であなたが笑うのはひなちゃんといる時だけだったし」
 
そう言って日奈子を見る。日奈子は言葉もなく目を剥いた。
 
今のふたりの関係がバレてないからこその言葉だが、だからこそドキドキしてしまう。
 
取り繕わなくてはと思うのにうまく言葉が出てこない。
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