冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「だけどそれは仕方がないことなんだ、日奈子。俺にとって日奈子はそういう存在だ」
 
どこか真剣な響きを帯びたその言葉に、日奈子は笑うのをやめて彼を見た。

「俺はずっと、九条を背負って立つための教育を受けてきた。常に完璧であり続けることを求められてきたんだ。それに応えられるよう努力し続けて、結果も出したつもりだが、祖母にとっては当たり前で、褒めてもらえたことはない」
 
今彼が言ったことは日奈子の目から見てもその通りだった。
 
しかも富美子は、彼の母である敬子にも彼を褒めることを禁じていたように思う。それがつらいと泣いていた彼女を母が慰めていたのを見たことがある。

「その中で日奈子はいつも俺を肯定してくれた。さっきみたいに"すごいすごい"と言って」
 
そう言って笑う宗一郎に、日奈子はびっくりしてしまう。

「だって……。宗くんがすごいのはその通りでしょう? 私は宗くんよりも年下だから大奥さまにダメだって言われなかったし。それに私がすごいって言ってたのは、勉強とか仕事のことじゃないもの……」

「それでも日奈子にそう言われると、なんでもやれる気がしたよ。今の俺がいるのは日奈子のおかげだ。だから俺が日奈子に甘くなるのは仕方ない。一生治らないし、改めるつもりもないから」
 
柔らかく微笑んで彼はベビーリーフを差し出した。
 
日奈子はもはやなにも言えなくなってしまう。

黙り込みベビーリーフを食べる日奈子の頬を、宗一郎が優しく撫でた。
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