冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
日奈子はカッとなって声をあげた。完全なる八つ当たりだとわかっている。

助けてくれたのに、ひどい言い方だということも。でも止められなかった。
 
ちらりと頭を掠めるのは雑誌で見たことがあるだけの美しい美鈴の姿だった。

彼女が宗一郎の隣に並ぶ様子を想像するだけで、胸の奥がチリチリと燻されるように痛くなる。
 
自分は、完璧な家柄のこれ以上ないくらいの相手と誰もが羨む結婚をするくせに、日奈子のことに干渉しないでほしいと思う。

日奈子には、この先彼への想いを抱えてひとり苦しむ日々が待っているというのに。


「私、早く結婚したいの。だって……お母さんが亡くなって天涯孤独なんだもん。早く本当の家族が欲しいのよ。仕事は楽しいけど出会いはないし、だから飲み会に行ったらいい人が見つかるかなって思ったの。それがそんなにダメなこと?」
 
一気に言って彼を睨むと、宗一郎は目を見開いた。

「日奈子は……結婚をしたいのか?」
 
心底意外だという宗一郎に、日奈子は目を逸らしてうつむいた。

「日奈子?」
 
咎めるように問いかけられて、半ばやけになって頷いた。なんだか頭がぐちゃぐちゃだった。

言っていることと本心はまるで違う。彼の意見が正しいことはわかっていても言わずにはいられなかった。

苦しい思いからどうしたら逃れられるのか誰かおしえてほしかった。
 
一方で宗一郎は「そうか」と呟いたきり口もとに手をあてて沈黙している。
 
少し意外な反応だ。
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