冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「日奈子、俺と結婚してくれ。天涯孤独なんて言葉はもう二度と言わせない。必ず、幸せにする」
 
宗一郎はそう言って日奈子の頬に手をあてる。
 
そのぬくもりに日奈子の脳がぴりりと痺れる。

愛する人に愛されていたのだという幸せな想いで胸がいっぱいになる。

私もあなたを愛していると口開きかけたとき、視界の先彼の向こう側にある母の写真に気がついて、ハッとして口を閉じた。

《大奥さまを裏切ることはしないでね》
 
頭の中で、青いノートに書かれた言葉が、母の声で再生される。

反射的に、自分を見つめる母の視線から逃れるように目を伏せた。
 
胸に灰色の不安が広がっていく。
 
彼への想いを抱くことすら母に背くようで怖かった。それなのに彼の愛に応えてしまったら、どうなってしまうのだろう。
 
ノートの最後に書いてあった切実な母からの願いを破る勇気は日奈子にはない。

そんなことをしたら、ノートの言葉通りに生活しても、母はもうそばにいてくれなくなってしまう。

「……好きじゃない」
 
宗一郎にというよりは、頭の中の母の声に答えるように日奈子は言う。宗一郎が息を呑む気配がした。
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