冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
この言葉が彼を傷つけているのはわかっている。でも、言わなくてはいけなかった。

「私は宗くんを、そういう意味で好きなわけじゃない。だから結婚とか……そういうのは……」
 
不完全な断り文句だ。でもそれで十分に意味は伝わる。

宗一郎の手が頬から外れ拳を作って離れていった。
 
ふたりの間に重い沈黙が横たわった。
 
長い長い沈黙を破ったのは、宗一郎だった。

「……わかった」
 
掠れた声でそう言って、静かに立ち上がる。
 
日奈子は顔を上げることすらできなかった。誠実に日奈子を求める彼の視線を見てしまったら、泣きだしてしまいそうだ。

私もあなたを愛していると、言ってはいけない言葉を口にして、正解を見失ってしまうだろう。
 彼はそのまま玄関へ向かい靴を履いて振り返った。
「鍵、ちゃんと締めるんだぞ」

パタンと閉まるドアの音を聞きながら、日奈子はすべて終わったのだと感じていた。
 
まさか彼も日奈子のことをそんな風に想ってくれていたとは想定外だった。
 
嬉しくないわけがない。でも彼の想いに応えることはできなかった。
 
きっぱり断った以上、今までのような関係でもいられなくなるだろう。
 
……だけど間違ったことはしていない。日奈子はそう自分に言い聞かせた。
 
顔を上げると、母が静かな眼差しで日奈子を見つめている。その母に向かって、日奈子は縋るように問いかけた。

「これでいいんだよね、お母さん」
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