冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
母亡き後、ひとりになり日奈子が寂しい時間を過ごすことを予測していた母からのアドバイスだ。
 
確かに日奈子は、編み物やアクセサリー作りなどの手仕事が好きで、学生時代はよく作った。

だからたくさんの材料を買い込んだのである。

つらい休日を乗り越えるために、あれこれやろうとしてみたが、あまりうまくいかなかった。
 
どれも手つかずか、あるいは少しやりかけただけでそのままになっている。

「ここにあるのは、これからやってみようかなーと思って買った分」

「そういえば日奈子は小さい頃からなにか作るのが好きだったな」
 
そう言って、宗一郎が籠の中身を座卓の上に出しはじめた。

「いろいろあるんだな」
 
ビーズ編み、レジンアクセサリー、羊毛フェルト……。

母を亡くす前ならば、きっと楽しんでやったであろうものばかりだ。が、今見てもやっぱりどれもやる気にはなれなかった。

出来上がっても『すごいね』と喜んでくれる人はもういない。
 
座卓の上の山盛りの材料から目を逸らして日奈子はそんなことを考える。
 
すると宗一郎がそんな日奈子をジッと見つめて、少し考えてから口を開いた。

「じゃあ俺もやってみようかな。これなら俺にもやれそうだ」
 
その言葉に、日奈子が顔を上げると、彼は手に『羊毛フェルトで作る柴犬セット』を持っている。
 
日奈子は驚いて問いかけた。
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