冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「え? 宗くんがやるの⁉︎」

「ああ、ダメか? たくさんあるから、ひとつくらい、いいかと思ったんだが。柴犬は譲れない?」

「そんなことはないけど……」
 
キットはやりきれないほどたくさんある。柴犬の羊毛フェルトはいつ買ったのか、覚えていないくらいだ。でも。

「宗くんがやるの? 本当に?」

「ああ、もちろん。所用時間一時間か、ちょうどいいな」
 
呟いて、宗一郎は早速キットを開けている。
キットの中には、ひと通りのものが揃っていてそれだけで完成までできるようになっている。

説明書を一読した宗一郎は早速やり始める。
 
真剣な表情で座卓の上でチクチクとフェルトを刺す姿は、どう考えてもおかしかった。昨日は、大勢の報道陣を前に全世界に向けて新規事業をアピールしていた人が、今はチクチクやるなんて。
 
だけどその手を見つめているうちに、日奈子の心が少し動いた。面白そう、やってみたいという気持ちになる。

「私もやってみようかな」
 
呟くと、宗一郎がこちらを見て微笑んだ。なにも言わずにまた手を動かしている。
 
日奈子は山盛りになっている袋をかき分けて『羊毛フェルトで作るオカメインコセット』の袋を手に取った。

宗一郎と向かい合わせになりやり始める。
 
手作りはいろいろやった日奈子だけれど、羊毛フェルトははじめてだ。

説明書通りにやっているはずなのに、なかなか思い通りにならなかった。
 
青くてかわいいオカメインコになるはずがなんだか妙な生き物になっていく。
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