冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「今日は暖かいな、歩くのにはちょうどいい」
 
秋晴れの空を見上げて、宗一郎が気持ちよさそうに目を細める。ふたり、大き通りのコンビニ目指して歩いている。
 
結局あれから午前中いっぱいを羊毛フェルトに費やした。

チクチク刺すだけと思っていた羊毛フェルトはやってみると意外と難しくて奥が深い。
 
宗一郎の柴犬は予想通り素晴らしい出来だった。
 
一方で、日奈子のオカメインコは……こちらも予想通り上出来とはいかなかった。

いくらやっても鳥らしくはならず、青いなんと言っていいかわからない生物に仕上がった。とはいえ少しコツを掴んだような……掴んでいないような。

オカメインコはとりあえず諦めて次は羊にチャレンジしてみよう、そう思ったところでお腹がぐーっと鳴ったのである。
 
昼食を調達しにふたり大きな通り沿いにあるコンビニ目指して歩いている。

「コンビニなんて久しぶりだな」
 
車道側を歩く宗一郎の呟きを聞きながら、日奈子は不思議な気分になっていた。

いつもなら永遠にも思えるほど長く感じる休日の午前中が、あっという間だったからだ。
 
しかもお昼に、お腹が空いている。
 
もちろん普段の休日も日奈子はちゃんと昼食を食べる。

でもそれは空腹だからというよりは、母のノートにそうするようにと書いてあるからだ。
 
一日一回は外へ出る方がいいとも書いてあって、そのふたつのことを満たすためにいつもひとりでこの時間にコンビニへ行く。

正直言って食べたいものなどなにもないけれど。
 
でも今はお腹はぺこぺこ、太陽の光を浴びているのが気持ちいいと感じている。
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