冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「そう、ちゃんと否定していくわ。あなたに迷惑がかからないように。だって、ほら、あなたの意中の彼女に誤解されたら困るものね?」
 
そう言って、美鈴が意味深に笑う。
 
言葉の真意がわからずに宗一郎は首を傾げた。今の宗一郎に恋人がいないことは彼女に話してある。

美鈴が、ふふふと笑い出した。

「あら、隠しても無駄よ。私、こういうことは鋭いんだから。あの鈴木日奈子さんって子、彼女なんでしょう?」
 
唐突に日奈子のことが話に出て、宗一郎は眉を寄せて美鈴を見る。

日奈子は今コンシェルジュてして美鈴が滞在するスイートルームを担当しているから、存在を知っているのは当然だが、どうして自分と繋がるのかがわからなかった。
 
日奈子から話しをするはずはないし……。
 
宗一郎が考えを巡らせていると、美鈴が目を輝かせた。

「あ、動揺してる。やっぱりね!」

「……わけのわからないことを言ってるなと思っているだけだ」
 
とりあえずそう否定するが、美鈴は引き下がらなかった。

「"冷静沈着"って言葉が服を着て歩いてるようなあなたが、レセプションの夜彼女を見て動揺したの、私見逃さなかったんだから。何年の付き合いだと思うの?」
 
その言葉に、宗一郎は目を閉じた。

——あの時か。
 
確かにあの夜、宗一郎は美鈴の隣に日奈子がいることに気がついて一瞬動揺した。ホテルで日奈子を見かけることはよくあるが、あの日はプロポーズを断られてすぐだったからだ。
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