冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
「だが恋人というわけではない」

「じゃあ、元カノ? 一方的に思いを寄せられたとか? 学生の時もよくあったわよね。でもどっちにしても、あなたがあれほど動揺するとは思えないけど」

「彼女はそういうんじゃない」
 
否定すると、美鈴が弾かれたように笑いだした。

「やだ、まさか片思い⁉︎」

図星を刺されてもうなにも言いたくなくなってしまう。黙り込む宗一郎に、美鈴は笑いが止まらないようだった。

手を叩いて笑っている。
 
ため息をついて顔を手で覆うと、彼女は目尻の涙を拭きながら口を開いた。

「ごめんなさい。モテるけど誰にも本気にならないって言われてたあなたにしては意外すぎて。それに社内恋愛っていうのも意外だわ。従業員に手を出したら、ちゃんとした恋愛でもセクハラ案件になりかねないもの。でもそのリスクをおかしても好きになっちゃうくらい魅力的なんだ。確かに可愛い子だったけど」

「彼女はただの従業員じゃない。幼なじみだ。昔から知ってる相手だよ」

「じゃあ、なおさら、エージェントにはきっぱり否定するように言っておくわ」

「……ああ、頼む」
 
宗一郎はもう無駄に否定せずに、くすくす笑いながら出口へ向かう美鈴のために、ドアを開ける。

「案内はいらないわ、お疲れ」
 
そう言って外で待っていたマネージャーと帰っていく彼女を見送った。
< 92 / 201 >

この作品をシェア

pagetop