冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
その言葉に、宗一郎はハッとする。つまり彼は宗一郎に"休みを取れ"と言っているのだ。

「副社長は就任されてからのこの三年、ほとんど休みを取られていません。いくらなんでもこれでは体調に支障が出ます。副社長は、我が社にとってなくてはならない存在ですから、これからは体調管理も我々にお任せいただきたく思います」
 
おそらく相当思いつめていたのだろう。少し声が震えている。
 
通常秘書は、上司の業務に意見しない。するべきではないと教育されている。

特にホテル九条では、祖母の代からそれが徹底されていた。
 
大企業のトップとは常に孤独であるべきだと祖母が考えていたからだ。

孤高の存在でなくては、重要な決断を正しい判断で下せない、と。
 
それでも彼が今宗一郎に意見したのは、それだけ自分を思ってくれているからだろう。
 
目の前の秘書を見つめながら、宗一郎は、自分が思い違いをしていたのだと気がついて、そのことにある感動を覚えた。
 
副社長に就任してからの三年間、全力で走り続けてきた。

寝る間を惜しみ会社の業績改善に尽力した。

それが功を奏したのか、業績は祖母の代と同じ水準に戻りつつある。
 
——だがそれは孤独な闘いだった。
 
少しのミスも許されず、すべての判断の責任が自分だけにのしかかる……。
 
だがそうではなかったのだ。
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