冷徹ホテル王の最上愛 ~天涯孤独だったのに一途な恋情で娶られました~
閉まるドアを見つめて、宗一郎は少し申し訳ない気持ちになっていた。
 
おそらく彼は、宗一郎が笑ったことに驚いたのだ。
 
大企業のトップとして孤高の存在でいろというのが、祖母の教えで宗一郎はその通りに歩んできた。

だからこそ、ここ数年の業績回復があるというのは確かだが、彼にとってはやりにくい上司なのだろう。少し笑顔を見せただけであの反応なのだから。
 
ここまでやってこれたのは、祖母から帝王学を受けたおかげだ。

だがこれからは、少しずつ考え方を変えていく必要があるのかもしれない。
 
宗一郎は、デスクに戻り黒い椅子に腰を下ろす。くるりと後ろを向き大きな窓から望む都心の街を見下ろした。

午後の日差しに照らされたホテル九条東京に目を留めると、そこにいるはずの日奈子のことが頭に浮かんだ。
 
——この三年間は、副社長としての業務にまい進した。
 
それが自分の使命だからだが、一方でそればかりに気を取られて、日奈子を本当の意味で支えきれていなかったのだ。

そのことに、先週の休日に気がついた。
 
あの休日の帰りがけに母親のことを口にして彼女が見せた涙に、宗一郎の胸は締め付けられた。

母親が亡くなってから笑顔を見せなくなった彼女の心にあったわだかまり。

亡くなった母を思うあまり、自分自身に生きる喜びを感じぬよう縛りをかけていたという彼女が傷ましくてつらかった。
 
ふーっと長い息を吐き、あの日の日奈子を思い出す。
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