ヒーローは間違えない〜誰がために鐘は鳴るのか〜
「先の見えない不安や苛立ちほど耐え難いものはない‥」

現状では、課長が会社を去るという未来はない。

そうなると、ヒカル自身が去るという選択肢しかない。

労働者の権利に『給料をもらって雇われる』という義務の他に『辞める』という権利も当然ある。

民法は最低でも2週間前、各々の会社の就業規則で言えば、『1ヶ月から3ヶ月前までに退職の意志を示すこと』となっていることが多い。

おおかた、過去に4回も辞職願を出しておきながら『実際に辞めていないということは本当に辞める意志はないのでは?』と思われているだろう。

専務のところで話は止まり、課長の耳には入っているかすら疑問だ。

もしも入っているならば、もっと別の方向からも横槍が入るはずだから。

弱いのはヒカルの方なのだろうか?

お世話になったオジサマ(前社長)への恩義。

父の親友という存在への親愛。

何よりも、仕事自体が嫌いなわけではないのだ。

同僚や後輩とだってうまくやってきたと自負している。

取引先との関係もよく、仕事の達成感も得ている。

それらを全て無にしてしまう、たった1人の存在‥。

その存在が、鮮やかに輝くはずだったヒカルの未来を、単なる闇に変えていく。

「もう、イヤだ‥‥」

たまにいい人のフリ。

自分だけが正義で、かまってほしくて、怒鳴った翌日は、何に対する懺悔なのか言い訳めいた言葉を口にしては満足して去っていく。

もちろん明確な謝罪をされたことはない。

いじめはするほうが悪いのか?される方が悪いのか?

どんな状況であれ、相手の反論も聞かないで一方的に相手を追い込むのは、悪ではないのか?

ヒカルはゴールの隠された迷宮に迷い込んでしまった冒険者のように立ち尽くすしか、成すすべはなかった。

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