鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


伊織が出張に出かけて数日が経ったある日。
栞那は早めに退社し、とある場所へと向かった。

タクシーで着いた先は、川崎市にある四つ星ホテルにあるレストランの個室。
古代中国の王朝の雰囲気を再現した空間にダークグレーの制服姿のスタッフに案内される。

「失礼致します」

お辞儀するスタッフの横を通り過ぎ、栞那は緊張した面持ちで入室する。

「遅くなりまして、申し訳ありません。本日はお忙しい中、有難うございます」

白いテーブルクロスが掛けられている円テーブルの奥に、すらりとした男性と小柄な女性がいた。
栞那は二人を目の前に、深々とお辞儀した。

「初めまして、成海 栞那と申します。先日は突然お電話致しまして、申し訳ありませんでした」
「初めまして。久宝 浩一郎(こういちろう)です。それと、妻の昭代(あきよ)です」

栞那の挨拶につられるように、二人も腰を上げ頭を下げる。

伊織との結婚を承諾した栞那は、ずっと胸につかえていた想いがあった。
伊織は十年も前に縁を切ったと言っていたが、やはり一度は挨拶しておくべきだと考えた。

三井に相談し、三井の父親を通して連絡先を入手し、そして今日、伊織の実の両親である二人と会うことにしたのだ。

伊織を捨てた両親は、母親の実父である吉岡(よしおか) 政宗(まさむね)の会社(吉岡興産)の跡を継ぐことを条件に伊織を切り捨てた人物だ。

重々しい空気が漂う中、次々と料理が運ばれてくる。
それを他人事のように視界に捉えながら、話しかけるタイミングを見計らっていた、その時。

「成海さんは、あの子の傍にずっといてくれるんですか?」
「……はい」

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