鬼社長の迸る視線に今夜も甘く絆される


「何かあったのか?」
「……いえ、何でもありません」

ホテルに戻り、夕食を終えると三井に電話が入り席を立った。
戻って来たやつの表情がいつもと少し違う。
席を立った時は焦ったような表情だったのに、戻って来たやつは安堵したような顔つきになっていた。
普段は殆ど表情に表さない男なだけに、その表情一つで何かあったのだと察する。

「俺に隠し事か?」
「……本当に何でもありません」

不気味なほどの笑顔を張り付け、“これ以上、質問するな”的なオーラを放つ。
長年連れ添った夫婦のように、この男の絶対感のような安心感は揺るがないけれど。
それでも、僅かな不安が無きにしも非ず。

「俺とお前の仲だ。気を遣うのは無しだ」
「……」
「お前が表情を崩すのは、家族のことか、成海のことだろ」
「……」
「いいから言え。責めたりしないから」

この男が俺に気を遣い、これまで栞那との接点をもたせてくれたことは分かっている。
感情を押し殺し、行動に移せない俺に、できる限りのことをしてくれた。

「実は……――…」
「―――は?じゃあ、何か?栞那はあの二人に会いに行ったというのか?」
「……はい」

三井の口から、十年前に縁を切ったあいつらの話が出て来た。
しかも、三井の父親を通して連絡先を入手し、直接会ったと。

……どうして、あいつらに彼女が。

「成海さんは社長のことが本当にお好きなのですよ」
「は?」
「好きだからこそ、その人の過去も全て受け入れる覚悟でお会いになったのだと思います」
「……」
「ですので、決して成海さんを責めるような真似はなさいませんように」
「……」
「それと、父からの伝言です」
「……」
「もうご自分をお責めなりませんように、と」

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