「好き」と言わない選択肢
 「おはようございます」

 土日は、家でゴロゴロして、見たかった映画を見て過ごした。もっと色々な事を勉強したり、挑戦してみたりすればいいのは分かっているが、なんとなく見たい物を見ておきたかった。

 週明け月曜日は、朝から会議も多く慌ただしい。

 「おはよう。橋本さん、例のアイスクリームの企画、本格的に始める事になったわ。昨年のアイスクリームの売り上げのデーターもう少し細かく調べて欲しいの」

 リーダーの岸田さんからの指示に、いつもなら仕事モードにスイッチが入るはずなのだが……

「はい。わかりました。地域別や販売先別にも集計してみます」

「そうね。よろしく」

 アイスクリームか…… あの彼が、面白いって言ってたな。企画の趣旨と違う事が頭を過り、軽く頭を叩きががら廊下を歩いていると、今頭に浮かんだばかりの人が歩いて来るのが目に入った。

 考えていた事が見えるわけではないのに、思わず目を逸らしてしまった。取り合えず、ぺこりと頭を下げて通り過ぎたのだが……

 「おいっ」

 おいって、何?

 思わず足が止まってしまったが、もう一度頭を下げて、そのまま逃げるように歩き去った。

 その週、何度かすれ彼と違う度に声をかけられたが、私は黙って通り過ぎていた。話す事もないし、必要以上に人とかかわりたくない。


 「ね、ねえ見た!!!?」

 企画室のドアを開けるなり、大きな声で飛び込んで来た里奈顔の方を皆が見た。

「第一企画部の木島さん、大阪支所に異動だって。今、辞令が貼り出されたのよ!」

「えーっ!!!」

 皆の驚いた声が部屋中に響いた。

「えっ」

 咄嗟に、口から漏れたた私の声など、誰にも聞こえなかっただろう。この時の、私の声と皆の声の意味が同じだったのかは、分からないが……


 私が避け続けたからだと分かっているが、まともに言葉を交わすことも無く、木島遥は、大阪へと旅立ってしまった……


 ほんの少しだけ、最後の挨拶だけでもしておけばよかったと思ったけど……
 両手を胸に当てると、必要は無かったのだと思えた。



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