「好き」と言わない選択肢
「はあー」

 やっと息が出来る気がして大きなため息をついた。せっかくの一人の休憩が台無しだ。適当な仕事して、あの女この女の話ばかりしかしない。ああいう人達は、大っ嫌いだ。
 残りのカフェラテを一気に飲み干して、席を立った。


 ホームページに記載される予定の資料の確認をしていると、定時のチャイムが鳴った。

「お疲れ様。金曜だし、企画の成功に、飲みに行かない?」

 第三企画部でも、明るく皆のまとめやくの、北川里奈(きたがわりな)の声が室内に響いた。

 部長を含め六人で成り立っているこの部署は、比較的、仕事熱心な良きメンバーの集まりだと思う。

「行く、行く」

 銘々に声を上げる中、私はパソコンの画面を見つめた。声さえ出さなければ、私の事は気にせず、部屋から出ていくはずだ。いつもそう願うのだが……

「橋本さんも行ける?」

 里奈に声をかけられてしまう。


「すみません。今日は英会話の日なんです」

「ああ、そうだったわね。残念ね」

 本当に残念そうな顔をしているが、一応声をかけてきただけだろう。だって、入社歓迎会の後から、誘われても断り続けている。
 英会話というのは嘘だ。通ってはいるが金曜日ではない。


 だけど、飲み会に行かないからと言って、皆と上手くやっていないわけじゃない。仕事上では、もちろん話だってるすし、問題ないと思っている。第一に、私は仕事が好きだ。もっと、もっと仕事をしたい。
 でも、プライベートまで、職場の人達とはかかわりたくない。仕事上の空間だけでいい。

 企画部から皆が去って行った事を確認すると、席を立ち部屋の電気を消した。


 自宅から会社まで、乗り換え一回の四十分。それほど遠い距離じゃないが、同じルートで帰宅する社員が居ない事は確認している。食品関係の会社で、全国には支店や工場があるが、本社とは言え。それほど社員は多くはない。

 駅の改札口を出ると、メイン通りから脇道に入る。

 目の前の見慣れた引き戸をガラガラと開けた。
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