「好き」と言わない選択肢
「見た目もよくて、美味しいもの考える事は、楽しいですから……」
独り言のように言うと、手にしていたジョッキを口に運んだ。
「俺も、皆が企画した製品をどうやったら消費者の手に、より多く届くのか考えるのは嫌いじゃない。行き詰まる事も多いけどな」
「そうですね…… いつか、私も自分の企画を通してみたい」
カウンターの上に置いた手をギュっと握った。この人に、こんな事を言うなんてどうかしている。早く席を立った方がいい。
「あら、さっちゃんのお知り合い?」
おばさんが、忙しそうに手を動かしながら、カウンターの奥から覗いてきた。
「同じ会社の方なの」
「まあ、いつもさっちゃんがお世話になってます」
おばさんは、そう言うとナスの煮ひたしを彼の前に差し出した。
「サービスよ」
「すみません。いただきます」
彼は、嬉しそうに頭を下げた。こんな風にお礼を言うなんて以外な気もしたが、営業マンなら当然の事なのだと、すぐに思い直した。
「旨いな、このナス」
答えるべきか悩むほどの、小さな声で彼がぼそっと言った。
「それなら良かったです」
私も、なんとなく答えた。
「旨い物食べると、今日は良い日だったような気になるよな。俺たちが企画する物も、うまいと思ってもらえる人がいるといいよな」
意外だった。彼の周りの若い社員達が、製品の話を会社以外で考えているとは思えなかった。なるべく楽に仕事をしたいと思っている人達ばかりだと思っていた。
「美味しいと思ってもらえれば、また食べたいと思うはず。そのためにも、生きていこうって思うかもしれない……」
「えっ?」
彼が少し驚いた顔をした。
「ちょっと、大げさですよね」
「いや、そんな事はないけど…… 仕事熱心なんだなぁと思って」
「そうですか? 普通だと思いますけど」
彼に目を向ける事なく言った。
「お飲み物はいかがですか?」
カウンターの奥から、いつの間にか手伝いに入っていた拓真が、彼の空になったジョッキに目を向けて言った。
「あっ。生ビールで」
「はい。かしこまりました。咲音は?」
「私は、もういいわ」
「店混んで来ているんだから、飲まねえなら。帰るか手伝うかしろよ」
「わかっていますよ。帰りますよ」
そろそろ、帰ろうと思っていたところだ。鞄に手を伸ばした。
「あの、彼女にも、飲み物お願いします」
彼が、拓真兄に向かって言った。
独り言のように言うと、手にしていたジョッキを口に運んだ。
「俺も、皆が企画した製品をどうやったら消費者の手に、より多く届くのか考えるのは嫌いじゃない。行き詰まる事も多いけどな」
「そうですね…… いつか、私も自分の企画を通してみたい」
カウンターの上に置いた手をギュっと握った。この人に、こんな事を言うなんてどうかしている。早く席を立った方がいい。
「あら、さっちゃんのお知り合い?」
おばさんが、忙しそうに手を動かしながら、カウンターの奥から覗いてきた。
「同じ会社の方なの」
「まあ、いつもさっちゃんがお世話になってます」
おばさんは、そう言うとナスの煮ひたしを彼の前に差し出した。
「サービスよ」
「すみません。いただきます」
彼は、嬉しそうに頭を下げた。こんな風にお礼を言うなんて以外な気もしたが、営業マンなら当然の事なのだと、すぐに思い直した。
「旨いな、このナス」
答えるべきか悩むほどの、小さな声で彼がぼそっと言った。
「それなら良かったです」
私も、なんとなく答えた。
「旨い物食べると、今日は良い日だったような気になるよな。俺たちが企画する物も、うまいと思ってもらえる人がいるといいよな」
意外だった。彼の周りの若い社員達が、製品の話を会社以外で考えているとは思えなかった。なるべく楽に仕事をしたいと思っている人達ばかりだと思っていた。
「美味しいと思ってもらえれば、また食べたいと思うはず。そのためにも、生きていこうって思うかもしれない……」
「えっ?」
彼が少し驚いた顔をした。
「ちょっと、大げさですよね」
「いや、そんな事はないけど…… 仕事熱心なんだなぁと思って」
「そうですか? 普通だと思いますけど」
彼に目を向ける事なく言った。
「お飲み物はいかがですか?」
カウンターの奥から、いつの間にか手伝いに入っていた拓真が、彼の空になったジョッキに目を向けて言った。
「あっ。生ビールで」
「はい。かしこまりました。咲音は?」
「私は、もういいわ」
「店混んで来ているんだから、飲まねえなら。帰るか手伝うかしろよ」
「わかっていますよ。帰りますよ」
そろそろ、帰ろうと思っていたところだ。鞄に手を伸ばした。
「あの、彼女にも、飲み物お願いします」
彼が、拓真兄に向かって言った。