【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 おでかけの日は、あっという間にやってきた。
 王家の紋章のない、比較的質素な馬車で目的地付近に乗り付け、シュトラウスとともに街を歩く。
 目的は喫茶店に行くことだが、途中の露店を見たりもしており、二人の「デート」は和やかな雰囲気で進んでいた。
 王女とその婚約者が身分を隠さずに町に出たら大騒ぎになってしまうため、今回はお忍びだ。
 町の人間に扮した護衛も同行している。


 今日のフレデリカは、王侯貴族というよりは、平民のお嬢様といったいでたちだ。
 水色のワンピースに、白いボレロ。フレデリカの銀髪と青い瞳によく合っていた。
 スカートはふくらはぎの真ん中ほどの長さで、シルエットは台形に近い。
 ふわふわの銀髪は、軽く編みこんでいる。

 シュトラウスのほうも、紺のシャツに黒いパンツといったシンプルな服装だ。
 王城勤めの彼は普段、立場に見合ったジャケットやベストを着用している。
 正装とまではいかないが、公爵家の人間として、王女の婚約者としてふさわしい服装をしっかり守っているのだ。
 その彼がラフな服装になったものだから、フレデリカはいつもとの違いにきゅんとしていた。

 こういう姿もかっこいい……!

 恋する王女・フレデリカ。隣を歩くシュトラウスを、ちらちらと見るのをやめられない。
 親愛が恋情に変わったのがいつだったかは、正確にはわからないが。
 仕事以外でこうして出かけるのは、本当に久しぶりで。
 ずっと好きだった人が、いつもと違う格好で、自分の隣を歩いている。
 盛り上がるなという方が無理な話だ。
 かっこいいかっこいい好き! と心の中で叫びながらよそ見していたせいだろうか。
 フレデリカが足をもつれさせ、転びかけた。
 転んだ、とはならなかったのは、彼女がぐらついたことに気が付いたシュトラウスが、その身体を支えて、自分のほうに引き寄せたからだ。
< 38 / 183 >

この作品をシェア

pagetop