【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
「きゃっ……!」
「大丈夫か、フリッカ」
「う、うん。ありがとう、シュウ」

 シュトラウスに抱き込まれるような形になり、フレデリカの心臓は跳ねた。
 なんとか絞り出した「ありがとう」の言葉も上擦っている。
 フレデリカのお腹のあたりに、シュトラウスの腕がまわされている。
 彼女の細腕とは違う、逞しく力強いそれは、彼が大人の男性であることを示していた。
 彼に触れられたお腹が、背中が、あたたかい。
 ふわりと香水の香りも届き、頭がくらくらしてきた。
 想い人との突然の接近に、フレデリカは顔を真っ赤にすることしかできない。
 

 シュトラウスの腕の中でフレデリカがかちんこちんになっている頃、彼は彼で大変動揺していた。
 いつかフレデリカの手を放すため、彼女に執着しないよう、女性として愛さないよう努力してきたシュトラウス。
 当然、彼女に触れることもしなかった。性的な接触でなくても、触ればそれだけ彼女への想いが深まってしまう。
 だからずっと、撫でたい、触れたいと思っても我慢してきたのに――。
 フレデリカは今、シュトラウスの腕の中にいる。

 出会いから、13年。
 まだ幼く小さかったフレデリカも、大きく成長した。
 成長したはずなのに、シュトラウスの腕の中にすっぽりとおさまってしまうのだ。
 男女の体格差を、意識せざるを得ない。
 互いにラフな格好をしていることもあって、彼女の柔らかさや体温もしっかりと伝わってくる。伝わってきてしまう。
 この温もりを知らないように、触れないようにと努めてきたはずだったのに、この状態である。
 シュトラウスの腕に、柔らかななにかが乗っている感覚もある。
 その「なにか」の正体は、考えないようにした。


 この国では、婚約者の段階で身体の関係を持つことも珍しくはなく、しっかり責任をとって結婚するなら非難されるようなことでもない。
 この二人も、成人した婚約者同士であるから、既にそういう関係であってもおかしくはないのだ。
 しかし触れ合いに慣れていなかった二人は、この程度の接触であっても、両者動揺し、身動きがとれなくなった。
 美しい女性を後ろから抱き込む、これまた見目のいい長身の男。
 どちらも顔を赤くしており、言葉も出ない。
 18歳と、25歳。これが婚約13年目の王女と公爵令息の姿だと言われても、信じる者はいないだろう。
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