【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 二人のおでかけから少し経った頃。
 今日もフレデリカは、シュトラウスの執務室へ向かう。
 この日は、フレデリカが刺繍を施したハンカチを彼に贈るつもりだった。
 彼女は器用で、外国語、マナー、教養、ダンスなどに加え、刺繍や歌といった芸術方面にも秀でている。

 シュウ、喜んでくれるかな。使ってくれるかな。

 少しの不安と、彼に手製のものを贈るどきどき。
 ふわふわするけれど、少し怖くて。2つの気持ちを抱えながら、フレデリカは王城を進んでいた。
 すれ違う人に王女スマイルを向けることも忘れない。
 執務室に通い始めて、1か月ほどが経ったろうか。ここまでの道のりにもすっかり慣れたものだ。
 彼の部屋の前で立ち止まり、深呼吸する。
 今までシュトラウスに贈ってきたものの多くは既製品だったが、今日は手作り。
 緊張してしまい、すぐにはノックすることができなかった。

 顔が赤くなっていないだろうか。上手く渡せるだろうか。

 高鳴る鼓動を感じながらも覚悟をきめ、手を動かしたときだった。
 執務室から、かすかに話し声が聞こえた。
 どうやら、扉一枚隔ててすぐの場所に、シュトラウスとブラームがいるようだ。
 この部屋には、手前にテーブルとソファ、奥に仕事用のデスクや棚があり、ソファを使っているときなどには、少しだけ声が外に漏れることもある。

 休憩中、なのかな。

 そんなことを思っていると、ブラームの声で「フレデリカ様」と。自分について話しているのが聞こえてしまった。
 思わず手をとめ、よくないと思いながらも聞き耳をたててしまった。
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