【電書化・コミカライズ】婚約13年目ですが、いまだに愛されていません~愛されたい王女と愛さないように必死な次期公爵~
 彼女との外出は楽しく和やかで、激務に疲れた心が洗われるようだった。
 王女という身分であるにも関わらず、露店の安いアクセサリーや串焼きに興味を持ち、「シュウ、見て見て」と笑顔を見せる彼女は可愛くて仕方がなかった。
 全部買おうと言ってしまいたくなるぐらいに。
 いつものような気品あるドレスではなく、裕福な町娘のような服装をしたフレデリカの姿も新鮮で、こういった格好もよく似合う、とても愛らしいと感じた。
 誘われたときこそ、受けるべきかどうか迷ったものだが、彼女とともに歩くうちに、一緒に来て正解だったと思うようになっていた。

 目的地の喫茶店へ向かう途中、フレデリカが転倒しそうになったときはひやりとした。
 なんとか間に合い、彼女が転ぶ前に支えることに成功。
 ほっとしたのも束の間。
 シュトラウスの腕の中には、フレデリカがすっぽりと収まっていた。
 怪我をさせないようにと必死だったから、どんな体勢になるかまでは、考えていなかったのである。

 シュトラウスの胸にすっぽりと収まる、小さな体。
 幼い頃とはまた違う、女性らしくふっくらとした柔らかさ。
 彼女の腹にまわした腕に、柔らかなものがのっている。
 細い腰。細い腕。
 じんわりと伝わる体温に、花のような香り。

 フレデリカはもう、幼い女の子ではない。ましてや、妹でもない。
 彼女は女性として、淑女として、王女として、美しく立派に育っている。
 密着するような形になったことで、彼女が「女性」として成長した事実を、認めざるを得なかった。

 愛しい人の体温や柔らかさを知ってしまったからだろうか。
 その後、シュトラウスの中で、どろりとした独占欲が頭をもたげた。
 この温もりを、他の男に知られたくない。渡したくない。
 フレデリカに触れていいのは、自分だけだ。
 仕事の一部として、他の男にエスコートさせることですら、許したくない。
 そう思った。

 このままでは、醜い嫉妬や独占欲にまみれてしまう。
 彼女が自由を望んだとき、手を放せなくなってしまう。
 だから、彼女に「また一緒に」と次の外出に誘われたとき、上手く答えることができなかった。
 誤魔化すように、幼子に触れるように、彼女の頭にぽんと手をおいて。
 明確な答えは出さず、その場を濁した。
< 45 / 183 >

この作品をシェア

pagetop