ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 二人が同じ単語を同時に紡げば、アルトとテノールにきっちり別れる。
 私は彼の紡ぐ声を聞いて、隣にいる人物がどちらなのかを確認していた。

「黒です」

 今、私の前には、救いを求める哀れな子羊が膝をついて祈りを捧げている。

 私の評判を聞きつけやってきた哀れな子羊は私に祈りを捧げながら、神へ背くことになんの疑念も抱かない、稀有な存在のようね。
 哀れな子羊の振りをした獰猛な獣か、哀れな子羊の資格が元々あったけれど、悪い羊飼いに騙されて生贄に捧げられた者かは、化けの皮を剥がして見なければわからない。

 いいわ。受けて立ちましょう。

「そう、ありがとう。ツカエミヤ」
「は、はい!ミスティナ様!」
「話し声が聞こえたりしないかしら?作戦は順調だ、とか。どうしてバレた、あの男は何者だ、でもいいわよ」

 私はアンバーにお礼を言うと、ツカエミヤの名前を呼んだ。
 彼女は緊張の面持ちで前へ躍り出ると、地獄耳の魔法を使って聞こえてきた言葉を報告してくれる。
 ツカエミヤの報告を聞いた哀れな子羊が、どのような顔をするのか楽しみな私も、性根が腐りはじめているのかもしれないわね。

「ミスティナ様のご想像通り、マズイことが起きた、上の報告しろ、作戦は失敗だと、アンエム伯爵とイギトフ卿の声が聞こえました!ここから約300m先の地点です!」
「ありがとう。アンバー、騎士を呼んでその2人を捕らえなさい」

 アンバーは小さく頷くと、部屋の外に待機していた騎士へ声を掛ける。
 アンバーは騎士へ持ち場を離れるよう指示すれば、部屋に残ったのは私とツカエミヤだけ。
 膝をついたまま祈りを捧げ、俯く哀れな子羊が次にやるべきことは──私とツカエミヤの暗殺かしら?

「……っ!」
「私を始末すると言うのかね?」

 哀れな子羊が俯いていたお陰で、私は彼女に知られることなく姿を変化させる。
 アンエム伯爵と面識があってよかったわ。
 お陰で、違和感なく変身魔法を発動させられた。

「あ、あ……!も、申し訳、ありません!」
「君が暗殺するべき女は、ミスティナ・アルム。皇太子妃だ。私ではないはずだが?」
「は、はい……!仰るとおりにございます……!」

 命の危機を考慮して、私はディミオから記録魔法が使える首飾りを預かっている。
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