ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 私は皇太子妃。ミスティナ・アルム。いつかは皇后となる女。
 彼を愛することなく婚姻したけれど、婚姻生活に不満はない。
 私が彼を愛していなくとも、彼が私にたくさんの愛を注いでくれるから。

「ミスティナ」

 彼が用意してくれた星空をイメージしたドレスを身に纏い、私は今日もディミオと公務に勤しむ。

「不自由はない?」
「ええ。問題ないわ」

 王城と言う名の鳥かごで飼育される哀れな皇太子妃と、私のことをよく知らない貴族たちが噂をしている。
 ディミオはそう囁かれるのが気に食わなくて、私に問いかけたんでしょうね。
 私が優しく微笑めば、ディミオも目元を緩ませる。
 穏やかで、ディミオのそばにさえいれば、誰かに加害されることのない……穏やかな生活。

 王城の外に出て、哀れな子羊を救うために行動を起こすのは難しいけれど。
 社交場には何度倒しても、どこからともなく社会悪がやってくる。
 彼らに皇太子妃として罰を与え続ければ、巡り巡ってカフシーの教会に助けを求める哀れな子羊達が減ると、私は信じているわ。

 私は私のできることをしながら、生きていけばいい。

「……ミスティナは今、幸せ?」

 幸せとは一体、どんな境遇を称するのかしら。

 愛する人と添い遂げることが幸せなら、私は不幸ね。
 ディミオには愛情を抱けていないから。

 自由を奪われたと言う意味でも、私は不幸だわ。
 ディミオが私に自由を与えてくれたら、こうして王城で皇太子妃として過ごす時間の方が短かったはずよ。
 哀れな子羊を救うためには、ミスティナ・カフシーを名乗る方が都合はいいもの。

 幸福を感じることがあるとすれば──社交場に現れる社会悪の断罪を、ディミオが一任してくださっていることかしら。
 私のことを愛しすぎているせいで、私が断罪するよりも先に、手を下していることも多いけれど。

 この国の皇帝となるべくして生まれたディミオに愛されているからこそ、私はこの王城内で、好き勝手に振る舞い暮らせる。
 それはとても幸福なことで、他の令嬢がどれほど願っても……叶わないことだわ。
< 110 / 118 >

この作品をシェア

pagetop