ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
 静かにしろって伝えたことを、忘れてしまうほどに驚いたのね。
 変身魔法が発動する瞬間を確認した迷える子羊が驚くのは今に始まったことではないから、こうして対処できるけれど……。
 口を塞ぐのが少しでも遅れたら、彼女を助ける場合ではなくなるこごがわからないのかしら?いい迷惑だわ。

「むぐぐ……!」
「静かにしなさい。今から私が、ツカエミヤよ」
「ふぐぐ!」

 コクコクと頷いたツカエミヤは、渡したフードを目深に被り、姿を消した。
 ツカエミヤのことはお兄様に任せて……私も箒とチリトリを手に歩き出す。
 屋敷の地理がわからないのは不便ね……。
 潜入すると決めてから潜り込むのが早すぎて、見取り図すら用意する暇がなかった。地理を把握する為にも、こっそり歩き回りたい所だけれど……。

「ツカエミヤ!」

 廊下を歩いていれば、見知らぬ女性に名前を叫ばれた。
 今の私はミスティナではなく、ツカエミヤだわ。この呼びかけには、返事をして足を止めなければならない。

「はい」
「はい、じゃないわよ!茶会の処刑人が怒り狂っているわ!早く行きなさい!」

 侍女仲間は、怒り狂った変態令嬢を宥めるためにツカエミヤを呼びに来たみたいね。少し長く油を売りすぎたみたい。私は侍女仲間に背中を押しやられ、変態令嬢の部屋に向かった。

「ツカエミヤは何処にいるの!?早く連れてきなさい!」
「ひぃ!お嬢様!どうか、どうかお慈悲を……!」

 変態令嬢は自室で噂通り大暴れしていた。近くにあった花瓶を振りかぶり叩きつけ、ソファの上にあったクッションをビリビリに破ると、中から羽毛が飛び出て来る。破れた状態で激しく床に叩きつければ、羽毛はヒラヒラと宙を舞った。

 鬼の形相であらゆるものを床に叩きつけてさえいなければ、空に舞う羽毛に塗れた天使と称されてもおかしくはないのだけれど──どちらかといえば、天使ではなく悪魔と称するのが正しそうね。ラヘルバ公爵家の侍女は苦労するわ。

「お呼びでしょうか、お嬢様」
「遅い!」
「きゃっ」

 中身が飛び出て抜け殻と化したクッションが飛んできた。
 私は両手で胸元を庇い、可愛らしい声を出して目を瞑る。ポスンとクッションの抜け殻が床に落ちる音がして、私は目を見開いた。

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