ざまぁ代行、承ります。星空の女神は沈黙の第二皇子とお兄様に溺愛されて、代行業に支障を来しているようです。
おや、お兄様の様子が……

眠り姫

「ミスティナ!」

 はじめての口付けだったのに。
 なんてことをしてくれたのよと、元気に騒げるような精神状態ではなかった。

 いつもはてめぇや愚妹(ぐまい)としか呼ばないお兄様が、焦って私の名を呼ぶくらいですもの。ぐったりと大広間の床に倒れ伏し、荒い息を吐く私の姿を見たお兄様は、疲れた身体にムチを打って、私を自室のベッドまで運んでくださった。

「お兄様も……たまには、私に優しくしてくださるのね……」
「は……っ。いつもだろうが。感謝しろ」

 お兄様は私と視線を合わせると、すぐに反らした。
 なんだか、苦しそうだったけれど……。
 お兄様も魔法回復薬の副作用で体調が悪いのかしら?

「魔力が完全に回復するまで、寝てろよ。魔法回復薬なんて、飲むんじゃねぇぞ」
「……ええ。わかったわ……」

 お兄様は私の部屋を勝手に荒らし、隠し持っていた魔法回復薬を回収すると、私の部屋を去っていった。

 怒涛の一日だったわね……。夜会の夜から朝方に領地へ戻ってきて、すぐにラヘルバ公爵家に向かったんですもの。
 既に夕方で、もうすぐ彼と顔を合わせて1日が過ぎたことになる。

 1度顔を合わせただけでもかなり体力を削られるけれど、2度も顔を合わせたら、気力もすべて彼に奪われてしまったわ……。

 好きだ、愛している。
 伴侶になって欲しいと囁かれ過度なスキンシップを受けるのも、楽じゃないわね。

 女の価値は殿方から愛されれば愛される分だけ上がると聞いたことがあるけれど、世の中のご令嬢は、愛される度に疲弊していることを表沙汰にせず、殿方に隠しながら生活しているのかしら……?

 殿方の恋愛って大変ね……。私には恋の駆け引きなど、できそうにないわ。

 いくら魔力を急速に回復させたいからって、魔法回復薬を2本一気飲みするのは間違いだった。
 苦しくてつらくて考えが纏まらず、殿下にもとんでもない約束をしてしまったわ。
 このまますべて、忘れてしまえればいいのに──。

 起きているから苦しいのよ。
 眠ってしまえば、思考する必要がないじゃない。そうだわ、そうしましょう。
 少しでも早く体調を万全にする為、私は深い眠りに身を委ねた。

 *4日目

「ミスティナ。いつまで寝ているの?起きなさい」

 思う存分睡眠を貪っていた私は、お姉様によって叩き起こされた。
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